
お知らせ
News
2025.08.28
匠の手仕事 小割哲也vol.4「内側から生み出されるものを」
現在は、作品制作以外にも様々な形で陶芸に関わっている。


「富士宮市に陶房・無心窯を開き、陶芸教室や学校で教えています。教えるのは楽しい。作家業だけでなく、いろんな人と出会い関われる方が精神的にもいいんです」
小割さんの作品は、年々変化を遂げてきた。初期の作風と現在の作風は大きく異なる。
「自分の内側から湧き出るような作品を求めています。昔は公募展に入選したい思いが先で、自分を出せていなかった。どこか頭で作っていたと思います。入選するようになっても、もやもやしていました」
どうしたら自分らしい作品が作れるか。考え続けた小割さんは、新たな挑戦を試みる。
「元々は、釉薬を使わない信楽焼(※)をやっていました。そのうちに釉薬を使う織部焼(※)もやりたいと思いはじめました。先輩から造形の癖が向いていると後押しされ、織部焼に取り組んでいきました」
織部焼とは、美しい緑色が特徴だ。小割さんは今までの作風を手放し、新たな作品づくりに励んだ。


「織部焼は作家によって、イメージが違うんです。自分が思う緑色を出すのに苦労しました。公募展出品作の作風をガラッと変えるのは勇気が必要でしたが、ようやくしっくりしてきたんです」
陶芸家になり、28年。創作への探究を緩めることはない。
「いつも、何かの拍子に新しいアイディアが生まれます。作っている時は没頭していて、ゾーンに入っているような感覚。そういう瞬間は、ものづくりには必要不可欠です。僕は、一ミリでもいいものを作りたい。陶芸を専門とするならば、深く関わることが役割だと思います」
どんなに技術を極めても、小割さんが敵わないと思う作品がある。それは、陶芸教室へ訪れたお客さん自身が、自分のために作る作品だ。
「自分で作った作品は、宝物だと思う。愛着、思い入れ、全てが作品に乗った、他にはない愛おしいものです。そんな自分で作った器を日常で使えるなんて、夢みたいなことだと思います」
魯山人への憧れから始まり、小割さんが魅了され続けてきた陶芸。改めて、その魅力を尋ねてみた。
「陶芸は、広くて深い。そして、奥深くて、飽きにくい。一人の人間が極めるなんて、とても無理な話。けれど、どんな性格や好みの人でも受け入れてくれる度量の深さがある。その懐の深さは、陶芸の本質、土が持つ力なのかもしれません」

完
(※)信楽焼 しがらきやき
日本六古窯の一つ。素朴な土の風合いを生かした、やわらかな表情が特徴
(※)織部焼 おりべやき
従来の焼き物のイメージを覆す、独特なデザインと深い緑色の釉薬が特徴